臨床医学論文の読み方講義レジュメ/今日も草をぬく
臨床医学論文の読み方 ver. 1.2
0.何のために論文を読むか・・・日常診療に役立たすため
1.医学研究の大分類
質的研究(叙述研究)と量的研究(疫学研究)
その他の分け方として仮説探索(生成)型研究、仮説検証型研究
*以降の話は、量的研究で特に仮説検証型研究のお話
3.EBMの5つのステップ
Step 1: 疑問(問題)の定式化
Step 2: 情報収集
Step 3: 情報の批判的吟味
Step 4: 情報の患者への適用
Step 5: Step 1~ Step4のフィードバック
*本日のお題は、Step 3
cf OBM.
4.研究デザイン
症例研究、症例集積研究、横断研究、症例対照研究、コホート研究、
無作為化比較試験(RCT)、メタ解析
・それぞれに特徴、長所、短所がある・・・それを知って、論文を読む、研究をする。
5.疫学研究におけるバイアス
selection bias 選択バイアス
measurement (information) bias 測定(情報)バイアス
confounding 交絡
*交絡をバイアスに入れている本と区別している本がある
*バイアスという言葉は、疫学と臨床推論で異なる
cf. リスクという言葉はもっと多様
cf. 臨床推論におけるバイアス
(徳田安春先生の講演「明日から役立つ臨床推論」より)
https://career.m3.com/kenshunavi/know-how/event/clinical-reasoning001-002
①Anchoring Bias 最初に考えた診断に固執して考えを改めない。これはありがちなバイアス。
②Availability Bias 最近遭遇した類似症例と同じ疾患を考えてしまう。インフルエンザシーズンは、熱で来た患者さんが皆インフルエンザに見えてしまうなどが挙げられます。
③Confirmation Bias 自分の仮説に適合したデータは受け入れるけれど、不適合なデータを無視してしまうというバイアス。
④Hassle Bias 自分が最も楽に処理できるような仮説のみを考える。早く家に帰りたい時に患者さんを診ると、何だか軽症に見えてしまう。金曜日の夕方などは特に要チェック。
⑤Overconfidence Bias 前医や指導医の意見に盲目的に従ってしまうというバイアス。指導医や前医も、間違えることはあります。「後医は名医」という言葉にもある通り、後医の方がたくさん情報を得られる立場な分、前医よりも正しい情報を判断できる環境にあるのですから、前医の判断に対して客観的にダブルチェックしようという姿勢は忘れずに持っておきましょう。
⑥Rule Bias 通常は正しいルールであっても、過信するとそれにミスリードされてしまうというバイアス。数々の経験則に裏打ちされているクリニカルパールが、どんな時にでも100%正解であるわけではありません。クリニカルパールを活用するときも、「例外がある」ことを常に意識しておきましょう。
6.一般的な医学論文の構成Introduction (background)
Materials and methods
Results
Conclusion
その他ContributorsAcknowledgments, Funding, COI(Conflict of interest), Ethical Considerations & Disclosure(s)等あり
7.論文の批判的吟味 CA: Critical Appraisal
→別紙フォーマット(最後に載せています)
・論文を批判的に吟味する:うのみにしない、but 「ぶった切る」わけではない
何を証明したいのか(仮説は何か?)
バイアスは?
統計手法は?
内的妥当性と外的妥当性(一般化可能性)、臨床的な有用性
・必ず意識しないといけないのは、reverse causation(因果の逆転)とconfounding(交絡)
・費用や手間、時間、自分がやるとしたらどうか等考える
8.論文の書き方のガイドライン
・基本的な論文の考え方、書き方は↓
International Committee of Medical Journal Editors
Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, andPublication of Scholarly Work in Medical JournalsUpdated December 2019
www.icmje.org
・最近は医学論文の書き方のお作法(ガイドライン)が研究デザインごとに色々でている
ex. 観察研究・・・STROBE、 RCT・・・CONSORT、 メタアナリシス・・・PRISMAそれらのportal siteがEQUATOR: Enhancing the QUAlity and Transparency Of healthResearch http://www.equator-network.org/
ex. STROBE(Statement—checklist of items that should be included in reports of observational studies) check list
* Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly
Work in Medical Journals http://www.icmje.org/recommendations/
9.エビデンスのピラミッドはミスリードする
*ここにエビデンスのピラミッドの図がはいります
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02833_11
ここにも新しいピラミッドの図がはいります
New evidence pyramid
https://ebm.bmj.com/content/21/4/125
「研究デザインのみでエビデンスレベルがきまるわけではない」(https://curious-physio.com/2018/06/10/一症例恐るべし-症例報告のすゝめ/)
cf. ・ GRADE (Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation)
・Minds 診療ガイドライン作成マニュアル 2017
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/guideline/pdf/manual_all_2017.pdf
以下がCritical Appraisal(CA)のレジュメ
Title of the article
Author(s), Journal, etc.
I Summary このセクションでは、論文に書かれている内容の要約をする。論文の抄録をそのまま書き写すのではなく自分で要約する。
1. Research hypothesis
・この論文は何を明らかにしたいのか?→仮説は何か?
*明確に仮説が書かれていない論文が少なくない。
2. Study design
・この研究のデザインは何か(デザインそれぞれに特徴、利点、欠点がある)
→デザインをまず勉強すること
・それぞれのデザインに「お作法」がある
ex. STROBE CONSORT PRISMA
・PECO(観察研究), PICO(介入研究):
Patient, Exposure or Intervention, Comparison, Outcome
3. Study subjects
・対象者をどのように選択したのか。Response rateはどの程度か。Inclusion criteriaやexclusion criteriaについても適宜まとめる。選択バイアスや外的妥当性の観点からまとめる。
4. Data collection
曝露指標 Exposure
アウトカム指標 Outcome
共変量 Covariate
5. Data analysis
・統計手法 *p値に注意
6.Results
・TableやFigureの説明
・Table, Figureは独立しているか?
7. Conclusions
II Strength of the paper
以下のセクションでは、論文に書かれていることだけにとどまらず、自分自身の考えをまとめる。可能な限り、箇条書きで整理して記載する。
III Weakness of the paper (bias, chance, etc.)・・・Limitation
・バイアスについては、交絡バイアス、選択バイアス、情報バイアスなどを中心に考察する。
IV Balancing of the paper ex.. strength > weakness
V Judgment
good
VI Suggestion for improving the paper
自分ならこうする
参考文献
『ゼロから始めて一冊でわかる! みんなのEBMと臨床研究』 神田善伸。南江堂。2016年10月25日。第1刷。2017年12月10日第2刷。
『論文を正しく読むのはけっこう難しいー診療に活かせる解釈のキホンとピットフォール』植田真一郎。医学書院。2018年3月15日。第1版第1刷。
『臨床研究の教科書 第2版 研究デザインとデータ処理のガイドライン 第2版』 川村孝。医学書院。2020年5月15日第2版第1刷。
『質的研究の考え方 研究方法論からSCATによる分析まで』大谷尚。名古屋大学出版会。2019年3月31日。初版第1刷。
以下日記
・本日6/1(火)は、6時起床。朝勉して出勤です。病棟ちょっと寄って午前外来。午後もちょっとだけ病棟に寄って帰宅。16時から17時20分くらいまでZOOMで大学院の勉強会。いつもはCAですが、今日はカメルーンのDr.の自己紹介と研究内容のお話。英語だったので、なかなかついていけません。その後17時40分から19時10分まで庭の草抜き。そして入浴、夕食。で、↑でご紹介したミニレクチャーの準備をして、このブログを書いております。もう疲れたので、そろそろ寝ます。
・明日は午前外来、午後回診とカンファレンス、夜間診療です。今日は外来でPPE(個人防護具)装着を3回しましたが、明日はどうなることやら?